『世界共和国へ――資本=ネーション=国家を超えて』柄谷行人


この本は岩波新書リニューアル第一弾として、著者の近年の論考をコンパクトに平易に書き下ろされたものです。それにしても副題がはやくも共謀罪に引っかかりそうな感じですねw。じっさい柄谷も、資本に対抗する各国の運動は国家によって分断されてしまうと言っている。だから国連を強化・再編成する「上から」の封じ込めが不可欠であると。

現在、新自由主義的な資本制の弊害が世界的に顕著になってきている。環境の破壊、対テロ戦争、そしてテロが生み出される原因にもなっている世界的な経済格差。これらは資本と国家の問題に深くかかわっている。社民主義的な形で問題を和らげることは出来ると思います。しかし究極的には資本制や国家のあり方を変えていかないといけない。それは漸進的な運動だし、世界共和国というのも統制的な理念であろう。

しかし歴史をみれば、カントが世界共和国を言った18世紀から2つの無残な世界大戦を経て国際連合が出来た。現在でも国連は無力ですが、これからますます必要な存在になってくることは間違いないと思います。環境問題や戦争、経済格差の問題は一国では解決できない。げんに国連を無視してイラク戦争をしたアメリカは世界的な非難を浴びています。

資本と国家は揚棄(廃棄ではない)されなければならない。しかしそれは容易なことではない。それは現実的な根拠を持って存在しているから。本書では資本とネーションと国家がどのようなメカニズムで結びついているかが、「交換」という観点から解明されている。それがどのようなものかは本書を読んでもらいたい。

僕は「アソシエーションについて」という記事で柄谷がブログやmixiのアソシエーションを予見していたというようなことを書いた。それは裏を返せば、現実は理論とは無関係に進んでいくということでもある。それは理論の無力ということだと思う。だから逆に言えば、実践的にやっている人(運動家だけではない)こそ、こういう本を読んでみると原理的な思考や長期的な展望を持てるのではないでしょうか。まさにその為に書かれた新書だと思います。



世界共和国へ―資本=ネーション=国家を超えて


著者からのメッセージ